信じた道 まっしぐら 脱サラ楽器製作家の吉田さん(茨城・日立)
工房で、オリジナルベースを持つ吉田さん

 日立市東金沢町に、エレキギターとベースの工房「Four Spirals(フォー・スパイラルズ)」を構える吉田智哉さん(52)が制作するギターやベースは、東京の有名楽器店で、70万円以上の値段で販売されている。

 質の高さは、全国規模の楽器博覧会の折り紙付きだが、庶民の手が届きにくいのが吉田さんの悩みどころ。

 「工房を構えて間もなく3年で、売れたのは数本。生活もあるし、のんきではいられない。でも、信じた仕事を続けたい」と職人の目で話す。

 

 元日製マンで、約19年にわたり、原子力関係の仕事に従事した。「やりがいはあったが、入社当初の、設計などの『ものづくりに関わりたい』という夢と、現実には、大きなかい離が生じていた。

 いつか、妻と南国に移住するという夢を抱いた。南国での生活のために、手に職をつけようと、東海村の木工教室に通い始めた。基本をマスターし、自由テーマでの制作機会を得ると、学生時代に熱中したベースギターをテーマにし、完成させた。音を鳴らしたとたん、目からうろこが落ちる思いがした。「ベースって自分で作っていいんだ」

 今日につながる道に、日が差した瞬間だった。

 

 「一度きりの人生だから」と妻は理解してくれたが、技術を学ぶ学校は東京にしかない。「単身通学というわけにも」

 週に5日、東京・お茶の水に通った。毎日往復6時間かかったが、通学時間をもてあましたことはなかった。録音した講師の言葉を聞き直し、走り書きのノートを清書、質問したい内容をリストにした。週末は、東海村の木工教室で実習を重ねた。

 大学院を卒業した秀才タイプではあるが、「楽器作りを学んだ2年間ほど、勉強に熱中したことはなかった」。

 

 吉田さんの作るエレキギターとベースは、独自の工夫と、手間がかけられている。指板が張られる棒状の部分(ネック)は、サンドイッチのように木材を何重にも貼り合わせる。塗装に拭きうるしを使うのも常識とは外れているという。70万円以上でも、採算がとれてはいないという。

 楽器の修理なども受けるが、それを本業にはしたくないという気持ちがある。

 「わがままは分かっているけど、頭に浮かんだ妄想とか夢を、形にするのが楽しくて」

 同工房☎︎090・3599・8238。

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