大きな大きな春告げ鳥 涸沼への飛来が待たれるオオワシ
涸沼上空を勇壮に飛ぶオオワシ。清水さんが昨年1月に撮影

春告げ〇〇〇

 鉾田市、茨城町、大洗町にまたがる涸沼の周辺に、国の天然記念物のオオワシが飛来するようになって、20年以上になる。1998年に水戸市の後藤俊則さんが撮影したその姿が、もっとも古い証拠だといわれている。

 例年、1月中旬から2月の上旬の間に飛来し、3月の中旬までに帰って行く。春の到来を告げる「春告げ鳥」といえばウグイスの別称だが、ウグイスが鳴き始めるのと同時期にやってくるオオワシを、日本一大きな春告げ鳥として見ている人たちが、涸沼周辺と、関係者の中にいる。

 帰る先は、ロシア東部といわれる。日本では北海道に飛来地が多く、関東や近辺では、涸沼のほか、栃木県の中禅寺湖、長野県の諏訪湖など数か所がある。

 

 本来であれば、オオワシの姿が、春が近いことを告げている時期だが、今年はまだ飛来が確認されていない(15日現在)。

 鉾田市箕輪の観光情報拠点「いこいの村涸沼インフォメーションプラザ」の所長、中里誠志郎さん(65)が浮かない顔なのは、1日に10本前後はあるというオオワシの飛来の有無を尋ねる電話に、良い返事ができないから。「自分だってやきもきしている上に、みんなのがっかりする声ばかり聞くことになる」と中里さん。同センターに近いレストラン「生愛水(オアシス)」の店主、白田道子さんも同じ電話を受けている。「バイクでオオワシに合いに来るのを初春の楽しみにしている人たちがいるの」と、やはり元気がない。

 中里さんの同僚の清水道雄(72)さんの記録では、最も遅いときでも2月6日には飛来したという。清水さんは、涸沼のオオワシの生き字引といえるアマチュアカメラマンでもある。

清水さんと中里さん

オオワシを探す清水さん(右)と中里さん

 

 涸沼に20年来飛来しているオオワシは同じ個体で、高齢であるのは確か。だから、「今年が最後かもしれない」という不安は、多くのオオワシファンが、何年も前から抱いてきた。

 清水さんも、飛来時期が近づくにつれ、心がざわつくのがいつものことだった。しかし、いったん現れると、その思いはうそのように消えた。「食物連鎖の頂点にいるオオワシの姿は、美しく勇壮で神々しい。だから、夢中になって、シャッターを押すばかりになった」と清水さん。

 清水さんは今も、そんな瞬間を待って、ほぼ毎日、涸沼周辺を巡っている。

 「もし出合えなくても、長年私たちを見守ってくれたオオワシに、心から感謝する春にすることはできる。その春だってオオワシがくれたすてきな春だといえるでしょう」と、覚悟も口にする。

 

 コロナ禍の中でも季節は巡っている。自然の中や街角で、「春はすぐそこだよ」だと告げている風物を訪ねる。

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