切り絵に込める「頑張れよ」 母校の卒業生に贈る切り絵を制作する切り絵作家・竹蓋年男さん(茨城・日立市)
自宅近くの公共施設で作業する竹蓋さん。「大きなテーブルがあるから助かるんです」と話す

 日立市の切り絵作家・竹蓋(たけふた)年男さん(64)はいま、繁忙期だ。この時期が繁忙期になったのは、4年前に新型コロナの流行が始まってから。作っているのは、優しい笑顔を浮かべる子どもたちの切り絵。この春、新たな世界へ飛び立つ同市立宮田小学校の6年生61人の卒業記念の品として贈られるもの。

 切り絵はB5サイズ。作業は、学校から預かった卒業生たちの写真をスケッチに起こすところから始まる。「子どもたちの印象は、写真の写り方によっても変わるが、子どもらに問いかけるように向かい合うと、それぞれの優しさが浮かび上がってくる」と竹蓋さん。

 切り抜く作業を含めると、1人分あたり2~3時間を費やすという。

 竹蓋さんが切り絵を始めたのは2003年ごろ。当時、縁が深かった旧真壁町には国の登録有形文化財が並ぶ独特な風景があった。はじめは、絵に起こしたり写真に収めたりしていたが、ある日、書店で切り絵の教則本を見て、「これだ」と思った。

 切り絵の腕を上げるにつれて、同町以外の風景もモチーフにするようになった。要望を受けて、各地で展覧会を開くようになった。

 卒業記念の切り絵を制作するようになったのは、4年前に、日立市で個展を開いたのがきっかけ。同市は竹蓋さんのふるさとで、宮田小学校は母校でもある。

 個展に足を運んだ当時の宮田小の校長が、竹蓋さんの優しい作風に感銘を受けて、依頼した。竹蓋さんは、「コロナ禍で、修学旅行も音楽会も中止になったという子どもたちの思い出作りに役立てるなら、こんなに光栄なことはないと思った」と振り返る。

 以後、恒例となり、コロナ禍が一段落した今も続いている。

 贈呈式は例年、卒業式の前に行われる。卒業式を前に緊張気味だったり、寂しそうだったりする子どもたちが、互いの切り絵を見て、切り絵と同じ柔らかな笑顔を浮かべる。

 「そんな瞬間がうれしくて、頑張っちゃうんです」と竹蓋さん。

 

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