大洗鹿島線を運行する鹿島臨海鉄道(本社・大洗町桜道)の乗務員の間には、夜勤の際の夕食に、手作りしたうどんを食べる伝統がある。毎晩ではなく、3~5人の夜勤担当者の中に、ベテラン乗務員と独身者がそろったときに食べることが多いという。同社の総括助役で乗務員の山本光男さん(49)は、「若い既婚者は弁当持参で夜勤に当たることが多いから遠慮する。昔は、毎晩うどんで飽き飽きしていたこともあった」と苦笑いする。
調理は、ベテラン乗務員が担当することが多いという。山本さんも担当者の一人で、かつお節といりこでだしを取る。味付けはさまざまだが、麺は乾麺と決まっている。定番の具は、タマネギとニンニクのスライスと肉を炒めたものだという。
材料費は、食べる人たちでもつが、「若い社員と割り勘というわけにはいかないでしょ。ベテランが支払うのが通例」と山本さん。駅長がメンバーに加わるときは、肉の量が増えるなど、豪華なうどんになるという。
同鉄道の草創期に、業務指導のために当時の国鉄から派遣された人たちが持ち込んだ伝統だという。国鉄でも夕食はうどんが定番だったという。
山本さんは、国鉄マンが作ったうどんを食べた最後の世代。だしの取り方と、タマネギとニンニクなどを使うことは、「背中をみて盗め」と厳しく言われて覚えたもの。今の若い乗務員にうどんを調理するものが少ないのは、「時代の変化。本業以外のことを強制することはできない」と山本さん。
山本さんは、研修などで、全国の鉄道会社の乗務員と交流があり、雑談の中でうどんのことで盛り上がることは少なくないという。各社とも国鉄ほかの大手鉄道会社から、業務指導のために派遣されてきた人たちから教わって定着しているという。「味付けなどは地域性があって、とてもおもしろい」と山本さん。
大洗駅隣に今年9月オープンした町営のカフェには、同駅乗務員たちのうどんをアレンジした「まかないうどん」というメニューがある。同鉄道の広報担当者が、SNSでうどんのことを発信して、大きな反響があったことを受けて、メニュー化された。
広報担当者の一員の鈴木賢嗣さん(48)は、「鹿島臨海鉄道に親しみを持ってもらうきっかけになればうれしい」と話している。