吉久保さんと従業員
看板商品を持つ吉久保さん(中央)と従業員

 清酒「一品」で知られる水戸市本町の酒蔵「吉久保酒造」社長の吉久保博之さん(40)はこのところ、地域イベントの運営者としても忙しい。

 同市と周辺の飲食関係事業者らでつくった団体「水戸の土産でおもてなし実行委員会」では代表を務め、今年8月と先月にも、JR水戸駅南口の屋外広場「ペデストリアンデッキ」で、酒と食事を販売する出店イベントを開いた。11月にも開催予定だ。

 主要メンバーとして加盟する団体でも、6月に同駅北口で出店イベント「日本酒bar(バー)」を開き、今月23~25日にも開催を控える。ほかにも、関係したイベントは多い。

 「安全が第一なのは当然のこと。でも、新しい生活様式にのっとった中で人が交流を深めることも大切。それを手助けすることは、自分の役割だと考えているんです」と吉久保さん。

 

 吉久保さんは12代目で、一品の名前は、地元の愛飲家に知らない人はいない。それでも、コロナ禍の影響は甚大だという。「売り上げは、春先から減り始めて、一時は前年比7割減にまで落ちた」と吉久保さん。

 春先といえば、新酒の仕上げに忙しいころ。「現実から目をそらそうとしていた時期もあった」が、状況は日々、深刻化した。

 現実に向かい合う勇気をくれたのは、主に2つのことだったという。

 ひとつは、平坦ではなかった会社の歴史。第二次大戦の空襲で蔵が焼けたのは3代前のこと。その後、火事で蔵が焼けたこともあった。自分が現場に立ってからも、東日本大震災があった。「何かがあって当たり前なんです」

 もうひとつの理由は、「同じ時代を生きる仲間たちの姿が励みになるんです」。

 水戸の土産でおもてなし実行委員会発足のきっかけは、コロナ禍の中、同市と周辺の飲食関係事業者が実施したイベントにあった。内容は、新型コロナウイルスの感染拡大を避けるために、飲食物をドライブスルー形式で販売しようというもの。ドライブスルーでは、人と人との接触を最小限に抑えられると考えた結果だ。一つの会場で多くの事業者が、一斉に販売することで、利用者の利便性を高めた。

 会場は、新たなスタイルのお祭りのようでもあったという。「工夫次第で笑顔をつくることはできると分かった。暗くなるばかりでは、未来はつくれないし」と吉久保さん。

 裏側では、「笑顔をつくることこそ、酒の役割だ」という思いも浮かんでいた。

 

 青春時代にロックバンドに夢中になったという吉久保さんは、イベントにエンターテインメント性を加えるのが得意。会場に設けるステージでは、郷土芸能の継承者、ダンサー、アイドル、シンガーソングライターなどが競演する。

 継続可能なイベントにしたいのも願いで、収支的に無理をしないのもこだわり。

 会場には共用のゴミ箱を置かず、各販売店舗が回収する。イベントは、3~4日続くが夜間の警備員は最小限にする。代わりが吉久保さんだ。「私は、日中はあまり役に立てないので、夜の警備で頑張るんです」と笑う。

この記事が気に入ったら
フォローしよう

最新情報をお届けします

Twitterでフォローしよう