【寒さなんて何のその①】遠望富士に感動して20年 堀江英二さん、栄子さん夫婦(大子)
堀江さんが、尺丈山から12月15日に撮影した富士山

寒さなんて何のその

 昨年12月16日、遠望富士山撮影の名人、堀江英二さん(大子町、67)と、栄子さん夫婦は、ホームグラウンドだという尺丈山の頂上に、夜が明ける前に到着した。尺丈山は常陸大宮市の西部、栃木県との県境にある標高511・5㍍の山。英二さんは、秋以降、10度目の登頂だという。

堀江さん夫婦

撮影の合間に笑顔を交わした堀江さん夫婦

 

 夜明けが近いのは、南東方面の大洗海岸沖の空が白み始めていることが伝えた。朝焼けの赤が空ににじみ始めると、南西のかなたに富士山が姿を見せた。前週に降り積もったという山肌の雪に、赤と白のグラデーションが映える。

 静まりかえった周囲に、英二さんが押すシャッターの音が響いた。栄子さんも、富士山に視線を向けて動かない。

 撮影開始から10分ほどで、周囲はすっかりと明るい朝の雰囲気。英二さんが、「よし」と顔をあげると、2人が笑顔をそろえた。

 気温は氷点下。もちろん寒い。だが、「そう? 靴の中にカイロは入れているけれど、富士山に出合えれば、寒さなんて忘れてしまうよ」と英二さん。栄子さんも大きくうなずいた。

 

 富士山は、水戸市の県庁から直線距離で約190㌔㍍。本県全域に遠望可能な場所が点在するが、天候や空気の透明度にも左右されるため、条件は厳しい。

 条件が整いやすいのが、寒さが厳しい今の時期。空気中の水蒸気が減って大気の透明度が高まるためだ。特に早朝は、冷気がちりなどを地表近くに抑えることで、さらに条件を良くする。各地の富士山遠望場所に、カメラがずらりと並ぶこともある。

 

 英二さんは、よみうりタウンニュースが2003~08年に主催した「茨城から望む富士山フォトコンテスト」の第2回の最優秀賞受賞者。受賞作品は、筑波山から撮影した富士山写真。夕焼け空に浮かぶ美しい山容と、都心の街明かりを共演させた。

 その後も、数え切れないほどの富士山を撮影した英二さんだが、今も、第2回の受賞作品を自分の富士山写真のベストショットだと話す。

 「理由は?」の問いには困り顔。「富士山と街明かりの写り方も、構図も気に入っているけどそれだけじゃない」と英二さん。当時は、富士山の撮影を始めたばかりだったという。「だから、完璧な富士山の姿に出合えただけで、すごい感動があった。作品の評価は、撮影時の感動の度合いとセットで決まるのかも」と自己分析した。

 ベストショットを撮影したときも、傍らに栄子さんがいたという。おしどり夫婦であることは確かだが、「私も富士山が見たいから一緒に来ているの。富士山は特別でしょ」と栄子さん。

 

 撮影開始から1時間が経過。富士山の左側斜面を雲が覆った。「東からの風が富士山に当たって、雲が生まれたんだ。あの雲は動かないから、撮影は終わりだよ」と英二さん。

 名人には、200㍍先の風の向きまで手に取るように分かるようだ。英二さんは、てきぱきと撮影機材を片付けながら、「天気予報によると明日も期待できそうなんだよ」と笑った。

 

 新シリーズ「寒さなんて何のその」では、寒さに縮こまりがちな真冬の屋外で、「何でそこまでやるの?」と思わせるほどに、好きなことに熱中する人たちの姿を追う。

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