鹿行地区を中心にした本県各地と、千葉県の催しなどで落語を披露する神栖亭南夢明(なむみょう)さんの本職は、神栖市太田の長照寺の住職。住職としての名前は、吉本栄昶(えいしょう)さん(42)という。師匠は、テレビ番組「笑点」に出演していたこともある三遊亭圓窓(えんそう)さんで、10年間、学んでいる。「落語は、僧侶の修行の1つでもある」と真面目顔だ。
披露するのは、多いときで月に3、4回。同寺で、圓窓さんを招いた落語教室も開催し、地域に落語文化を根付かせたいという願いもある。
広島県出身。実家も寺だが、仏門に入るつもりはなかった。理由は、「食べていくのが大変だから」。南夢明さんの子ども時分、実家の住職は母親が務め、父親は働きに出た。寺を継いだ兄も、会社勤めと二足のわらじだった。
仏教系の大学に進学したのは、偶然が重なってのこと。大学4年のとき、住職が不在だった長照寺の本堂が改装されることになり、大学のすすめで、地域に向けた改装の説明会に出席した。そこで、次の住職だと勘違いされ、「あれよあれよと話が進んだ」。
住職としての暮らしぶりは、予想通りだった。時にはアルバイトに出ることもあった。その上、当初は、遠くからやってきた若い住職を冷ややかに見る目も多かった。「精神的にきつくて、円形脱毛症にもなった」
10年目。辞めると覚悟を決めた。すると、応援してくれていた人たちの声が届くようになった。「いなくなっては困る」と、寺の門に車を横付けしてバリケードを作った人もあった。
落語の稽古を始めたのは、気持ちを変えて、間もなくしてだった。
「落語は、その昔、僧侶の仕事が枝分かれした先の1つ」と、南夢明さん。座布団に座ることや、扇子を使うことなどはその名残だという。
だから、住職が落語を稽古することは、修業の一環とも言えるという。南無明さんはその上で、「笑顔を通して多くの人と交流したい」という、かねてからの願いに背中を押されている。「お葬式のときだって、笑っていいと思う」という考えの持ち主だ。
住職を辞めようかと悩み続けた10年間も、しかめっ面だったわけではない。寺を遊び場にしてほしいと、子どもたちをどんどん招き入れた。寺の古い祭りを復活させたのも笑顔のため。その祭りで、手作りの露店を盛り上げようと、大盤振る舞いした結果、「バイトを増やさなくてはいけなくなった」こともあった。
1年前に始めた同寺のユーチューブチャンネルに登場するのは、住職としての吉本さんだが、口調は南無明さん。落語の独演会といった楽しい雰囲気だ。
最新動画は節分がテーマ。同寺の豆まきでは、「鬼は内」というかけ声を上げるという、興味深い話が語られている。
2月5日午後1時から、同寺で南無明さんらの落語発表会が開かれる。見学は自由。
同寺のユーチューブチャンネルは、こちら。