国の特別天然記念物の鳥、コウノトリの目撃情報が県内各地で増えている。自然繁殖が確認されている神栖市、行方市と周辺だけでなく、水戸市など県央地区でも聞かれる。編集室への電話や、SNSでの発信もある。
9月中旬の夕方、神栖市の野鳥愛好グループ、波崎愛鳥会の会長、柳堀弘さん(77)と同副会長、阿部正行さん(67)が見つめる先で、15羽以上のコウノトリが羽を休めていた。場所は、神栖市の水辺。2人は、県内各地で目撃されているコウノトリの多くが、同市から飛び立っていると考えている。柳堀さんは、「コウノトリの行動範囲は広く、神栖で確認された個体が、青森県や九州地方で見られても不思議はない。本県内なら、散歩感覚でどこへも出かける」と話す。阿部さんも「県外を含めて、ここまで多く集まるところは珍しいのでは」と加えた。
コウノトリは、成鳥が羽を広げると約2mになる大型の鳥。東アジアの広範囲に生息している。
食物連鎖の頂点に立つため、環境の変化の影響を受けやすく、各国で絶滅が危惧されている。日本では、1971年に野生個体群が絶滅。その後、人工繁殖が行われ、現在は兵庫県や千葉県などで放鳥も行われている。日本におけるコウノトリ繁殖の拠点、兵庫県立コウノトリの郷公園によると、国内では7月31日現在で476羽の野外での生息が確認されている。
神栖市では、2011年に初めて確認された。15年ごろから毎年見られるようになり、昨年は1組のペアが営巣。県内で初めて4羽のひなが巣立った。今年も同じペアが営巣して、6羽がふ化した。
同市の水辺に集まっていたコウノトリは、千葉県や、本県などにまたがる渡良瀬遊水池近くで生まれた個体だと考えられている。集まった理由は定かでないが、「ここを選んでくれたのは確か。うれしい限り」と2人。
コウノトリは肉食で、ドジョウ、カエル、バッタなどが好物。水辺のほか、水田や草原でも目撃される。
2人は、多くの人にコウノトリを観察してほしいと願う反面で、「驚かすことは絶対にやめて」と願う。地上にいるコウノトリの観察では、150m以上の距離を保つのが目安だという。
秋空を飛ぶコウノトリに出合えることもある。その姿は美しく、力強い。ほんの少し羽ばたいた後は、グライダーのように、空を滑る。
飛行中は、アオサギと見間違うことがあるという。アオサギは体が大きく、羽根に黒い部分がある点も共通しているからだ。
見分けるポイントは、首の姿。アオサギが首を縮めて飛ぶのに対して、コウノトリは、首をぴんと伸ばして飛ぶ。
2人は、「みんなが、自然への理解を深めれば、いつか神栖市と茨城県全体がコウノトリの里として知られるようになる」と話す。