実は今が盛期の金継ぎ 「麦工房」でこつこつ作業中(茨城・常陸太田市)
熱心に指導する菊池さん(写真左)

 常陸太田市天下野町にある古民家の納屋に8月中旬、皿やカップなどの破損した陶器に向き合い、細かな手仕事に励む女性たちがいた。女性たちは筆を手にしたり、ヘラに持ち替えたり−。

 ここは、漆塗り作家の菊池麦彦さん(39)の工房「麦工房」。女性たちは、菊池さんが主催する金継ぎ教室の生徒たちだ。

 金継ぎは、破損した陶器などを漆の接着力を使って修復する伝統工芸の一つ。金継ぎと呼ばれるのは、漆が乾く前に金粉を蒔(ま)くため。金色の線などが浮かぶ作業後の陶器は、「以前の陶器とは別の“風景”をまとってよみがえる」と菊池さん。

 

菊池さんの教室に通う生徒の金継ぎ作品

 

 実は、金継ぎを含む漆工芸は、今の季節が最盛期だ。理由の1つは、作業の要といえる漆の木の樹液の採取作業が最盛期を迎えること。菊池さんは漆の木の栽培もしていて、今年から採取を始めている。2つ目の理由は、漆が乾燥(硬化)するには高い湿度が必要ということ。同工房の作品乾燥場所は、大きな木箱の中。中には、今の時期でも、湿度を上げるためのぬれタオルが広げられている。同工房の金継ぎ教室は、空気が乾燥する冬期は休校になる。

 菊池さんは埼玉県出身で、今は埼玉県と同市の2拠点生活を送っている。同工房は、母親の実家に構えている。

 漆の道を志したのは美術大学に通った時期。将来を考え始めたころ、常陸太田市を含む茨城県の県北地区が漆の産地であることを知った。「産地で活動するほうが、学びが多いのでは」と考えたのが、同市にやってきた理由だ。

 金継ぎの指導を始めるつもりはなかったという。きっかけは、東日本大震災。インターネットで活動を報告している菊池さんのもとに、被災地から金継ぎの依頼が殺到した。併せて、その指導を依頼されることも増えてきた。「求められるのはありがたいこと」と、門戸を開いた。

 生徒の1人、東海村の菊地京子さん(62)は、通い始めて4年。きっかけは、亡くなった夫とペアだったコーヒーカップが破損したこと。「自分の手で修復したかったけれど、割れ方が複雑で、先生にお願いしてしまった」。目的は達成したが、その時の感動の大きさから、今でも通っている。

 菊池さんが作家として仕上げるのは、日本の伝統的な食器、道具類のほか、釣り道具、アウトドア向けの食器など幅広い。菊池さんは、「漆を始めたころには、想像できなかったほどに広がっている。それは、漆の持つ力が無限だからだと思う。漆の産地としての茨城北部地区のPRにも貢献したい」と話している。

 金継ぎ教室は毎月1回開催。10月11・12・13日には同工房で、菊池さんの漆作品の個展を予定している。問い合わせは、同工房ホームページ(https://mum-urushiproducts.com/)から。

 

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