家族で紡(つむ)いだ昭和ロマン 朝8時開店 珈琲館 美留区(茨城・高萩)
味わいある店内で、モーニングを持つ桜井さん

 高萩市春日町の喫茶店「珈琲(コーヒー)館美留区(ミルク)」は午前8時から、モーニング(280円)を提供している。内容は、厚めのトースト、サラダ、ゆで卵、フルーツのセットだ。

 かつて、午前7時に開店して、3種類のモーニングを提供していた時代があり、当時と比べれば、にぎわいは減ったが、長年にわたり毎日訪れるという人は少なくない。

 この日、開店と同時にやってきた伊藤功三さん(72)は、近所で精肉店を営んでいる。やがて、元公務員の斉藤正廣さん(73)がやってきて、合流した。「情報交換の時間」と伊藤さん。この日は、スマホの翻訳機能がテーマだった。

 

 開店は、1975年。東京で芽吹き始めていたコーヒー専門店ブームを意識した店で、こだわりのストレートコーヒーを、サイフォンで入れるスタイルと、セピア色が基調のシックな内外装を自慢にした。

 開店には、同店の隣に、同日にオープンした衣料系スーパー「イトーヨーカドー高萩店」が影響した。喫茶店の前身は、ふとん店。現マスターの桜井周二さん(68)の父親が開業した店だ。転業は、イトーヨーカドーの開店を受けた生き残り策だった。

 転業が決まったとき、桜井さんは、東京のふとん店で修行中だった。それでも賛同したのは、「魅力のある親父であり、母親だったから」。修行を切り上げた桜井さんは、妹と共に東京の料理専門学校で学んだ。

 

 開店から5年以上、いつも満席だった。人気の火付け役は、流行に敏感なイトーヨーカドーの従業員。東京さながらの同店で過ごすことが、ステータスにもなった。

 新たに家族になった桜井さんの妻、玲子さんを含めた大忙しの毎日は、「家族で夢を追うようで楽しかった」と桜井さん。

 

 イトーヨーカドーは2005年に閉店。父親は、イトーヨーカドーの閉店後、間もなく他界した。

 町と店の景色も大きく変わった。かつてのような転業も頭に浮かんだが、家族で作り上げた店には、思い入れがあった。

 また、モーニングを求めてきてくれるような、日常の一部として店を愛してくれる人たちの姿も支えになったという。

 桜井さんは冗談交じりに、「妻とふたりだから、お客さんが少ない日は、私たちが食べるのを我慢すればいい」と笑う。

 そうした肩肘張らない営業方針と、昭和のムードがあふれる店のたたずまいが、新たなニーズも開拓している。カメラ片手に各地の個性ある店を食べ歩く人たちが、県内外からやってくるという。

 「店のことにとても詳しくて驚く。長くやっていると面白いことがあるよね」と桜井さん。

珈琲館 美留区
ストレートコーヒーはコロンビア、キリマンジャロなど6種。軽食は、「直(じか)火焼きサンド」(480円)ほか。
午前8時~午後4時。火曜定休。高萩市春日町1の19。☎︎0293・22・2750。

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