【寒さなんて何のその④】天文は無限のエンタメ 移動天文車指導員の中川義通さん
移動天文車に乗り込んだ中川さん

寒さなんて何のその

 「『寒さなんて、何のその』と、まさにそのつもりなんですが・・・」と、ちょっと寂しげなのは、水戸市全隈町の水戸市少年自然の家勤務で、子ども対象の天文観測会などを各地で開く中川義通さん(50)。肩書きは、同市移動天文車指導員。大気が澄む冬は、天文観測のトップシーズン。出番が増えるはずの時期だが、新型コロナウイルスの影響で天文関連のイベントは、ほぼすべて中止になっている。

 同施設で毎年12月中旬に行っているふたご座流星群を見る「観望会」も、今年度は中止になった。参加者は同施設に泊まり込んで夜通し観測するという本格的なもの。参加人数には制限があり、例年10倍以上の競争率になる人気ぶり。

 会場は同施設の広場。参加者は、途中で施設内に入って、暖を取ったり仮眠したりするが、中川さんは流星の一粒すらも見逃さないように、ずっと、広場で夜空を見上げる。「見つけるたびに『ほら、あれ!』と声が出てしまう。気持ちが高揚して寒さなんて忘れている」と中川さん。

 

 大学では地震を学び、大学院では太陽について研究したが、天文学は「門外漢だった」。中川さんが同指導員になった20年前は、後に中川さんの“パートナー”になる同市の移動天文車が初導入された時期。ワゴン車に本格的な天体望遠鏡を積んだものだ。

 天文の基礎を学んだあとは、リサイクルショップで買った一眼レフカメラで夜空の撮影を始めた。「やればやるほど、夢中になったあの頃の気持ちは、今も忘れない」。2日以上にわたって徹夜してしまうことも珍しくなかった。被写体は、夜空から星座、星、銀河へと広まり、どんどん遠くなっていった。目に見えないものを撮るのも当たり前になった。

 後日、天文学者の講演会で聞いたという言葉で、当時の自分の心境を説明した。

 「『宇宙の果てとは、認識の果てのこと』だそうです。あの頃のぼくは、新しい星を見る(認識する)ことで、自分の中の世界をどんどん広げていた。楽しいに決まってる」

 

 今、子どもたちの世界を広げることに夢中だ。

 子どもたちに天文の話をしていて一番うれしいのは、「すごい」という反応があったときだという。自分が天文に関わり始めたときもその連続だったから。そんなときは、余計な説明をしないよう心掛けている。「天文は勉強じゃなくて、無限のエンターテインメントだから、一緒に感動しているだけでいいんじゃないかな」

 子どもたちの関心を引くためにペットボトル製の水ロケットを作ったり、クラフト紙でロケット模型を作ったりもする。それぞれ、県外からの貸し出し依頼があるほど本格的なもの。

 同じ目的で練習中なのが、ジャグリングだという。初めて星と向き合おうとする子どもたちの場合、楽しむための第一歩は、緊張を解くことだからだという。

 「子どもたちに会うなりジャグリングを始めるのです。子どもたちが、『なんだか変なおじさんがいるよ』と、ざわつき始めれば大成功です」

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