地域を守り、守られる水 富士山下の湧水
名水に手を伸ばす弓野さん、青柳さん、中島さん(左から)

 常陸太田市上深荻町の富士山下(ふじやました)の湧水(ゆうすい)は、国道349号を北上し、愛宕神社の鳥居を右手に見た左側の道を入ってすぐの場所にある。

 きっちりと封をされたコンクリートの筒にある注ぎ口から、見るからに清らかな水を、絶えず落としている。

 水源は、湧水地の東側。地元では「おふじさん」として親しまれている富士山だ。周辺の細田集落28軒が、年に1回の一斉清掃のほか、水質検査などの管理を欠かさない。

 すっきりとした飲み口だ。水温は年間を通して、18~19度。この時期は、コップを差し出すだけで、ごちそうにありつける。

 遠方からの水汲み客も多く、集落内には、口に入れる水は、すべてここの水という人もいる。

◼︎地域の生活を支えてきた

 現在の国道が通るまでは、国道を挟んだ反対側の山裾に湧き出していた。同集落の世話人の中島隆さん(73)によれば、注ぎ口のほか、水槽が2つあり、一方は食材を冷やす場所、もう一方は鍋などを洗う場所として使われた。中島さんは、「丸々と太った脂の乗ったカツオが、水槽の中で冷やされていたことを覚えている」という。

 国道が通った後しばらくは、水が湧き出すままになっていた。動いたのは、2005年当時、集落の世話人だった弓野政人さん(59)。集落の慰安旅行の積立金で、湧水の整備工事をしてはどうかと持ちかけた。「災害時を想定もした。東日本大震災のときは、湧水を頼りにしてくれる人が多かった」と弓野さん。

 「集落の宝だよ」というのは、もう1人の世話人の青柳鉄男さん(67)。中島さんは、「集落には、そば打ち名人を自負する人が多いけど、技術より、この水のせいかも」と笑った。

 


 新シリーズは、県内各地の名水とゆかりの人たちを訪ねる。

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