
フィリピン出身の小泉クリスティナさん(53)が開くパン店「バーハイ」は、常陸大宮市北塩子ののどかな田んぼ道の先にある。店は、コンテナを改装した小さなもので、夫、豊明さん(66)が生まれ育った家の庭に置かれている。オープンは10年ほど前。豊明さんは、「こんな田舎にお客が来るはずないと大反対したけど、押し切られちゃってね」と笑う。
店の品ぞろえは、あんぱんやりんごパン、焼きカレーパン、クロワッサン、カボチャのブレッドなど。注文があれば、ふるさとフィリピンのパンも作る。店での販売もするが、中心は福祉施設などに出かけての出張販売。月に1回ほどはイベントにも出店している。
クリスティナさんは、ネグロス島の都市の出身。日本で暮らすいとこの紹介で豊明さんと出会い、結婚した。豊明さんは何度もフィリピンを訪ねて愛を育んだ。
初来日は結婚が決まってから。それまでは、「日本といえば東京のイメージだった」というクリスティナさん。成田空港に到着したのは日が落ちた頃。嫁入り先に向かう車内。車窓の先の景色はどんどん変わっていき、やがて「真っ暗になった」と、クリスティナさん。想定外で驚いたが、「豊明さんも、義父母も優しい。ここに来てよかった」と思った。
長女が幼稚園に入る頃になると、持ち前のチャレンジ精神がむくむくと湧いてきた。片言だった日本語で自動車の運転免許を取得し、近くの直売所やスーパーで調理補助などのパートをした。パンを焼く楽しさも覚えた。
料理は、以前から得意で、「フィリピンで料理コンテストで優勝したこともあるのよ」と、クリスティナさん。
オープン当初の店を支えたのは、ふるさとの仲間たちだった。市内や、隣の大子町からも駆けつけて、袋いっぱいに買ってくれた。「懐かしいパンで、パーティーをするの」と、たくさん注文してくれた人もいた。そのうちに、「こんなところにパン屋?」と、珍しがって訪ねて来てくれる人も出てきた。
客を引き付けるのは、パンのおいしさと、クリスティナさんの優しさ。クリスティナさんは11人きょうだい。子どもの頃からみんなで支え合うのが当たり前だった。常連の客の好みは覚えて、顔を合わす機会には必ず用意する。
豊明さんはいま、オープン当初の大反対を忘れたかのように楽しげに店に立つ。パン生地をこねる工程も担当。出張販売の際には、いつも2人そろいのポロシャツで出かける。
「パンのおかげで、みんなに喜ばれて、お父さんと一緒に仕事ができる。パンに心から感謝ですね」と、クリスティナさん。





