鹿嶋市下津のスーパー「コミュニティーストアミズノ」で、鹿島灘地域の冬の伝統食、ごさい漬けの漬け込みが始まっている。
同店のごさい漬け
ごさい漬けは、ぶつ切りにしたサンマを加える特徴ある漬物。漬け方は、店や家庭ごとに違いがあり、同店ではまず、鮮度と脂の具合にこだわったサンマだけを漬けて3週間。その後、ダイコンを加え、2週間待って完成だ。塩、ユズ、タカノツメのあんばいなど、こまかな調整も味の決め手。仕上がりは、サンマのうま味がダイコンにも染みわたり、「こくがありつつさっぱりしていて、箸が止まらない」と、同店社長の水野明善さん(67)。
現在、漬け込み中なのが、今年最初のごさい漬けで、完成は12月中旬の見込み。「本来は、もう店に並べていないといけないんだけど」と、明善さん。サンマの不漁による高値が影響しているという。値段が下がってから漬けるつもりだったが、客からの「『あれがないと冬を迎えられない』の声に応じた」という。
同店のごさい漬けの味を決めているのは、明善さんの義理の娘の千絵美さん(36)。千絵美さんは、千葉県の出身で、結婚するまではごさい漬けを知らなかった。“師”は、義理の祖母、きみさん。義母の久子さんは、若くして亡くなっている。きみさんも、すでに他界している。
千絵美さんのきみさんにまつわる思い出の1つが、千絵美さんが炊飯器のスイッチを入れ忘れたまま朝食の時間を迎えたときのこと。「おばあちゃんは、『私が嫁だった時分なら、大目玉だったよ』と言って笑っていた」と千絵美さん。
そんなきみさんが、ごさい漬けの漬け込みの指導のときは、別人のように厳格だった。サンマとダイコンの大きさはミリ単位で指示。サンマの血抜きのための水洗いは、ざるの中で50回手回しすると決まっていた。一番難しかったのは塩加減。千絵美さんが漬けたごさい漬けを食べて、「おめえのはだめだ」と、きっぱりと言われたこともあった。
コミュニティーストアミズノは、明善さんが3代目になる地域に根ざした店。幼少期から「ごさい漬けといえば、ミズノ」という人は多い。千絵美さんは、1人で仕上げたごさい漬けを、最初に店に並べた時の緊張を、今も忘れない。その分、客に「きちんとミズノの味だ」と言われたときのうれしさも、深く刻まれている。
サンマの高値の影響で、今年は、全体の生産量も減らす見込みだという。それでも千絵美さんは、「世の中が変わっていっても、おばあちゃんの味を守りさえすれば、ごさい漬けを愛してくれる人はいなくならない。信じて、がんばります」と笑顔だ。
新シリーズ「冬の手しごと」は、各地で始まっている冬の作業現場を訪ね、温もりと合わせて紹介する。