水戸市柵町の田口よし子さん(69)宅の庭に咲いた「ど根性花」の情報が、ニューヨークを経由してよみうりタウンニュース編集室に届いた。町の小さな話題で終わることの多い花の便りが、太平洋を越えて行き来した背景には、世界規模のコロナ禍があった。
花は、物干し台の支柱中の空洞をくぐり抜けて咲いたアルストロメリア。物干し台の周辺に地植えされていたものが、驚異の生命力で花を付けた。写真を添えた電子メールを寄せたのは、ニューヨーク在住の田口さんの長女、一枝さんだ。
一枝さんは、主にガラスを素材にする造形作家。美大を卒業後は、海外を拠点にしていて、スペインやフランスでも活動した。国際的なコンテストの受賞歴も多い。
2人は、折に触れてメールや手紙のやりとりをしていたが、「娘は根っからの芸術家だし、一生懸命やっているのは分かっていたから、必要以上の連絡や口出しは、しないよう心掛けていた」とよし子さん。
コロナ禍が、遠慮を取り払ったという。
先に不安が広がったのは日本だが、すぐに双方が同じ不安を抱えるようになり、互いを心配した。
「かといって、大げさなことはできないでしょ」とよし子さん。互いに外出がしにくい状況の下、ありのままの日常を伝え合った。
よし子さんは、飼育する犬、庭の花、少し足を伸ばして偕楽園の花などを写真に収めて、メッセージアプリで送った。一枝さんは日常のほか、自分が手がけている作品の写真を送ることもあった。「私は芸術のことは分からないから娘の作品について話し合いをすることなんてなかったのよ」とよし子さん。
ど根性アルストロメリアは、よし子さんが送ったもののうちの一枚だ。
よし子さんは、「前にも同じことがあったし、特別ではないんだけど」と言いながらもうれしそう。一枝さんは、「ニューヨークが本当に大変なころにアルストロメリアの写真を見て、心が明るくなった。日常にたくさんの美しいものがあることを再認識した。それを知る母も誇りに感じて、投稿した」と話している。