水戸市河和田町の伊藤忠司さん(76)、洋子さん(77)夫婦が、ほぼ毎朝向かうのは、同市緑町の県青少年会館内にある「ココリコ食堂」。目当ては、具だくさんの豚汁、平飼い有精卵の生卵などがセットになった和定食(500円)だ。
忠司さんは、サラリーマン勤めを終えて悠々自適だが、洋子さんは今も、家業のそば店に立つ。ここに来るのは、早朝からの店の仕込みを終えた後。「唯一のほっとできる時間なの」と洋子さん。
ココリコ食堂は、昨年3月に開店。魅力の1つが、朝7時からの朝食だ。
長い間専業主婦だった阿野(あの)圭子さん(57)が、初めて出した店。「自立したかったし、どうせなら地域に役立てる形で始めたかった」。母親は長年、民生委員などとして活動。その姿への憧れもあった。
自宅は、店から徒歩圏内で、県立歴史館や偕楽園の緑を感じられる周囲は、かつて、朝の犬の散歩コースだった。店の場所のことは知っていて、「ここで朝食を食べられたらすてき」と思っていた。管理者の県にかけあうと、話が進んだ。
開店が決まる前から、勉強を重ねた阿野さんだが、「思い返してみれば、向こう見ずだった」。多くの人に支えられて、今があるという。
厨房の要を担う主婦友だちと出会ったのは、開店の1週間前。料理学校で経営を含めて学んだその女性は、メニューも、値段も決まっていない状況に驚いた。
フロア担当として働く息子の公亮(こうすけ)さん(23)は開店の頃、県外での長期の仕事を終えて、一時帰郷していた。「店が予想以上に忙しそうだったから、やむなく手伝いを始めた」
忙しい時間には、エプロンを着けて、スタッフのようにふるまう常連客もいる。
客層が幅広く、客とスタッフらのふれあいの機会が多いのも店の特徴。阿野さんはいま、高齢の客のセーターを、洗い方が分からないという理由で託されている。公亮さんも、転居したてという客を、休日に街案内したことがある。
公共施設内の店という安心感が、ふれあいを作っている面もある。だが公亮さんは、「息子が、こんなこといっては、笑われるかも」と前置きした上で、「店の雰囲気づくりに一番貢献している“看板娘”は、母。飾らないし、一生懸命な人だから」と話した。
和定食に添えられる豚汁のレシピは、野菜嫌いだった子どもの頃の公亮さんに、野菜を食べさせようと工夫したものだという。
「味の評判もいい看板メニュー。ずっと前から、一生懸命だったと思うと頭が上がらない」と公亮さん。
月曜定休。午前7時~午後3時。火曜日は午前8時~☎︎090・3590・4934。
新シリーズ「朝めし処(どころ)」では、朝食を提供する各地の飲食店を訪ねる。