
日立市石名坂町の石川恭央(やすお)さん(71)は、主に小石をキャンバス代わりにして、人物、動物、風景などと、素直な言葉を描き合わせてアート作品にしている。以前は作品を、「石ころ絵手紙」と呼んでいたが、近年はキャンバス代わりの素材が増えたことから、そう呼ぶのを辞めた。これまでに仕上げた数は、「数千単位」。展覧会を開いたり、マルシェイベントに出品したり、SNSで発表したりして、人気を呼んでいる。
「原動力は?」と問うと、「石ころの魔力」と笑った。
近作の1つに、NHKの朝ドラ「あんぱん」の一場面があった。「いいなと思ったらすぐにペンを取る」と石川さん。恐竜シリーズも近作だ。ステゴザウルスを描いた作品には、名前のままに「ステゴザウルス」の文字。それには、別の意味も込めた。「恐竜は、子育てをしなかったらしい。すべての恐竜は捨て子(ステゴ)ということでしょ」と笑った。
創作の場は居間。多くの場合は、妻がテレビを見ている隣で、ペンを走らせる。「以前に、絵手紙を描いてたころは、自分の部屋でないと描けなかったんだ」
小石を画材にし始めたのは6年前。河原で開かれたイベントに、孫を連れて参加したのが最初。イベントの趣旨は、河原の石に絵を描いて自然を楽しもうというもの。その日の楽しさは昨日のことのように思い出す。理由は「うまく説明できないけど、紙やはがきに描くのとは違って、何でも許される気がした」。すると自分の描きたい絵が、実力以上に上手に描けた。
家でも小石とペンを手に取るようになった。
SNSで作品を発表するようになると、想定外の広がりがあった。ゴミ拾いのボランティア団体から、主催する展覧会への出品依頼がきたのだ。その団体は、集めたゴミをアート作品に仕上げ、環境への意識を高めようと努めていた。
賛同した石川さんは、ゴミ拾いにも参加するようになった。そのことは、石川さんの創作意欲を、さらにかき立てた。
「これ、犬の顔にしか見えないでしょう?」。手に取ったのは、缶ビールのプルタブ。輪になった部分が口だという。それに気がついたのは、団体のゴミ拾い活動中。「絵が描きたくて仕方なくなった」
缶詰のふたや、容器自体もキャンバスにするようになった。今、一番気に入っている画材は、缶ビールの「生ジョッキ缶」のふただという。
近年は、「石ころ甚五郎」という作家名で活動している。江戸時代の大工で、日光の眠り猫などを仕上げた左甚五郎からとった。石川さんの本業が大工であることからきている。「ぼくは、何世紀も先まで残る作品は作れないけど、作品づくりを通して、何百年も先の人たちの生活環境を考えることはある」と真面目顔だ。
しかし、活動の幅が広がる中でも、作品作りを楽しむ姿勢は同じ。
「きっと今夜も、テレビを眺める妻の隣で、気ままにペンを走らせるよ」
ホリゾンかみねで作品展開催中
日立市宮田町の市ホリゾンかみねで、石川さんの作品展が開かれている。
展示は石ころとプルタブなどを素材にした数百点。会期は、8月31日まで(7月7・14日は休館)。同施設℡0294・22・2045。