
日立市西成沢町の市民ランナー、李洪勲(り・こうくん)さん(62)が、日本を含む世界4か国で行われる世界6大マラソンを完走する「シックス・スター」を達成した。9年を費やしての達成だった。
最後のレースは、4月にイギリスで行われたロンドンマラソン。フィニッシュした李さんの心を包んだのは、「流儀を通してよかった。あきらめなくてよかった」という思いだった。
李さんは日製マン。長年にわたり、原子力発電施設のタービン開発に関わっている。マラソンを始めたのは40代後半。体重が、今のベストより10㌔以上多い、78㌔に達したのがきっかけだった。
初めてのフルマラソンは2012年の勝田全国マラソン。その後は、毎年2~4回のフルマラソン出場を重ね、2016年、世界6大マラソンの1つの東京マラソンに初参加。会場で、シックス・スターを目指すことを決めた。
世界6大マラソンに数えられるのは東京とロンドンのほかに、ボストン、ベルリン、シカゴ、ニューヨークシティーがある。シックス・スターを認定するのは、6大会が共同運営する組織。インターネット上で記録を管理し、シックス・スターを達成すると、フィニッシュ後に6つの輪をデザインしたメダルが贈られる。
世界6大マラソンは、「ぞくぞくするほどの魅力がある」と李さん。東京マラソンに次いで参加したベルリンマラソンでは、ブランデンブルク門など、世界に知られる名所の近くを走るたびに感動に包まれた。
達成までに10年近くを費やしたのは、現実的な事情から。金銭面、体調面、時間の都合、新型コロナの影響も受けた。
参加申し込みの抽選が壁になることもあった。最後のレースのロンドンマラソンは7年連続で抽選にもれた。達成が先送りになり、「もういいかな」と諦めかけたこともあったという。
そんなときでも体力面の調整だけはやめなかった。シックス・スター達成に求められるのは完走する力。「ベストタイムを狙って失敗することはできない」。“ゆっくり走る練習”、“速く歩く練習”などが、とても大切だという。
李さん宅には、国内外の大会でもらった完走メダルを飾る場所がある。メダルの近くには、2枚の証書が飾られていた。1つは東京大学大学院の工学博士の学位記、もう一つは勤務先からの表彰状だ。
李さんは中国出身で、30歳で来日。学位取得までに費やした期間は6年。その間、「何度も、ふるさとに帰りたいと思った」が、諦めなかった。表彰状は、海外での大型受注に対するもの。10年以上をかけた大仕事だった。「その間にはいろいろあった。何度も会社を辞めたくなった」と笑う。
シックス・スターのメダルは、それらに並ぶ誇りだというが、厳密に言えば差がある。
「会社からの表彰状が一番。仲間と力を合わせてもらったものだから」