日立市みなと町の道の駅日立おさかなセンターにある定食店みなとやは、午前7時から、朝定食(880円)を提供している。サバ、サケ、アカウオ、ホッケから選ぶ焼き魚と納豆などのセットで、通勤のサラリーマンや近所の住民などに喜ばれている。
中心になって店を切り盛りする矢代裕樹さん(33)は、駆け出しの板前。この道に入ったのは、同店を含む同センター内飲食店の3店を取り仕切る父、均さん(65)のすすめから。均さんも、熟練の板前だ。
みなとやは昨年6月、空き店舗を有効活用して、コロナ禍で失われつつあった活気を取り戻そうと開店した。
開店前、従業員の採用を含めて、新店舗にまつわる多くを任された均さんは、畑違いの前職を離職したばかりの裕樹さんを、すぐに思い浮かべた。一方、裕樹さんは、「1か月は断り続けた」と笑う。その理由は、子どものころから見ていた父親の仕事ぶりにあった。
裕樹さんが中学生のころまで、均さんは、高萩市にあった自宅ですし店を経営していた。いつも見ていたのは、怖いほどに真剣な父と母の姿。「子どもには、けんかしているようにしか見えなかった」
だが、店に入った後の父は、別人のように優しかった。均さんは、「私の仕事ぶりを見ながら育った息子に対する信頼は大きい」と話す。
午前10時以降の通常メニューでは、一番人気のアジフライ定食のほか、多彩なメニューを提供し、その大半を、裕樹さんが仕込みから担当する。均さんも認める大きな技術向上の裏側には、裕樹さんが、すでに一緒に暮らしている婚約者の存在もある。
店で使い切れなかった食材を持ち帰ることがあり、婚約者を喜ばせようと、腕によりをかける。「初めてすしを握ったときは、『おにぎりみたい』って言われちゃったけど」と裕樹さん。
婚約者の存在は、均さんの誘いを断り続けていた裕樹さんが、心変わりしたことにも影響している。きっかけは、均さんが、裕樹さんと婚約者との夢に、理解を示してくれたこと。
夢は、2人で山里にカフェを開くこと。均さんは、「同じ、飲食を中心にした接客業で学ぶことは多い」と話し、応援も約束したという。
休日の昼時ともなればてんやわんやの忙しさで、夢に描く山里のカフェとの共通点はかき消されるが、朝食時の様子は違う。特に休日の朝などは、同センター駐車場に車中泊した旅行者たちが、まるでカフェにでもきたように、のんびりと朝食をとっていくこともある。「ここも良いところだし、『和食も良いなぁ』と思うこともある」と裕樹さん。