
ひとときの涼を求めて、日本三名瀑のひとつ、大子町の袋田の滝を訪ねた。内陸部にある同町の気温が、高めなのは承知のこと。その上で取材を決めたのは、袋田の滝と観瀑台へ向かうトンネルがつくりだす天然のクーラーが心地良いと聞いたため。結論を言えば、訪ねて正解だった。だが、「涼しかった」と言い切るのも、ちょっと違った。
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袋田の滝周辺の位置関係は次のよう。公営駐車場から観瀑台までは約1・3㌔㍍。基本的にゆるやかな登り坂が続く。
まずは袋田の滝につながる滝川に沿って歩く。やがて現れる土産店を脇目に見ながら、さらに歩く。突き当たると、見上げる位置に袋田の滝入り口の料金所とトンネルの入り口がある。トンネル内も緩やかな登り坂。約250㍍で観瀑台だ。
「トンネル入り口に近い土産店にはクーラーが不要」。そんなうわさもある。トンネルを抜けた冷たい空気が、一帯を包むためという。
取材日の大子町の最高気温は、36度。滝入り口まで歩いた時点で、汗が滝のように流れた。トンネルに入る前に、事前に用意した携帯用温度計を見ると32度。暑い。
「トンネルから冷たい風が吹き出しているはず」と期待したが、控えめだった。観瀑施設の支配人、村山康さん(61)は、「トンネルの前では、『うわぁ涼しい』なんて声がよく聞こえるのですが」と話す。日によって差があるようだ。
それでも、中に入るとぐっと涼しい。温度計は30度を下回った。約100㍍先の休憩ポイントでは27・2度まで下がった。
取材を振り返ってみて、最も涼しいと感じたのは、次のポイント。意外と早く来てしまった。
その場所は、トンネルの脇道の先。「恋人の聖地」とよばれるモニュメント(上写真)があり、その先は、滝川を見下ろす展望場所。風は、トンネルを抜けて滝川へ向かう。モニュメントに向けてカメラを構えると、背中に吹き付ける風が冷たく、震えが起きるほど。
その先も、気温は27度台を保ったが、登りが険しくなる。進むにつれて湿度が上昇、涼しいという感覚は薄れていく。観瀑台へ到着。そのときの感動は、季節を超えて深いものだ。
しばしの時間をおいて気温を測ると32度。暑い。屋上部の第2観瀑台に上がると、33度に達した。強い日差しもあった。そこで、フランスから訪れたというカップルに出会った。「日本の夏は、暑いけど最高!」との声に、救われる思いがした。
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帰りのトンネルは、下り基調ということもあり快適だ。恋人の聖地のモニュメントを再訪すると、やっぱり涼しい。
料金所の先、駐車場までは、ごく普通の夏。取材道具一式を背負っての道は、厳しい。
汗をふきふき運転席に座り、エンジンを掛けると、エアコンの風が吹き付けた。とても心地良い。しかし、恋人の聖地モニュメントで感じた爽やかさには、かなわない気がした。