ひたちなか市十三奉行の飯田隆司さん(73)宅で、那珂湊だるまの制作が進んでいる。
全体を覆う赤の塗り付けや、ヒゲなどの表情の描き込みを行うのは納屋の中。天気の良い日には、塗料や墨を乾かすために、納屋前の広場に制作途中のだるまが並ぶ。
完成した那珂湊だるまは、新年の多幸を願う縁起物として、市内の暮れ市などで販売される。
那珂湊だるまの特徴は、額の部分がリーゼントヘアのようにせりだしていること。これには漁師町らしいいわれがある。「漁師が額に手をかざして、沖を眺める様子を表していると言われています」と妻の恵美子さん。
歴史は江戸末期にさかのぼる。親せきと作業を分担した時期もあるが、いまは飯田さん宅だけで受け継がれている。飯田さんは5代目だ。
飯田さん夫婦には、サツマイモ農家という顔もある。
「歴史のある家業は誇りでもあるけれど、重圧もあった」と2人。
2人にはここ数年、うれしい話が続いた。
夫婦は、那珂湊だるまともう一つ、那珂湊張り子の技術継承者でもある。一つ目の喜びは、それにまつわること。
那珂湊張り子は、張り子でつくるトラとウサギ。那珂湊だるまと変わらぬ伝統がある工芸品だったが、代々受け継いできた木製の型が、東日本大震災の被害で損傷してしまって、制作できなくなっていた。
その那珂湊張り子を作らせてほしいと、志願者が2人も現れて、夫婦が許しを出したのだ。
「熱心な2人で、お任せできると思えたの」と恵美子さん。飯田さんも「肩の荷が少し下りたよ」とうれしそう。
もう一つの朗報は、サツマイモ作りに関すること。長女のつかささんが手伝いたいと言ってきたのだ。
夫婦は、サツマイモを生産するだけだったが、つかささんは、干し芋への加工もするという。恵美子さんは、「お嫁に行った先で、理解してもらえたよう」と喜ぶ。飯田さんは、「だるまで忙しい時期に、娘の世話も焼かなきゃいけなくて」と、笑顔で言う。
那珂湊だるまの後継者はまだいないが、2人は長男の潤さんの話になると目を細める。「暮れ市のときなんかは、先頭を切って頑張ってくれる」。
那珂湊だるまは、飯田さん宅でも販売する。飯田さん☎029・262・3725。