水戸市の中澤敏子さん(90)は、現役の声楽家で、合唱指導者。このほど市内で開かれたコンサートでは、合唱団の指揮をしたほか、プッチーニのオペラ「ある晴れた日に」など2曲を独唱。情感豊かな歌声に、大きな拍手が送られた。
コンサートは、県主催の県芸術祭参加県民コンサート「第43回日本の歌 声楽演奏会」。中澤さんが中心となって開いているもので、合唱団7団とソリストが出演した。
中澤さんは、昭和6年笠間市生まれで、翌年水戸市に転居した。歌好きの母の子守唄を聞いて育ち、友人宅でふれたピアノに夢中になった。母が夢見た音楽教諭の道を志し、東京芸術大学委託声楽科を卒業後、県立土浦二高に8年、県立水戸二高に29年勤めた。
コーラス部の指揮者として、合唱コンクールの全国大会に19回出場した。指導のこつは、「子どもたちが“調子こむ”(調子にのる)まで教えること。そうすると、あとは自分たちで夢中で学ぶのよ」と笑う中澤さん。45歳からは、地域のコーラスグループの指導もした。
指導に明け暮れた人生だったが、60歳で退職し、63歳で夫を亡くしてからは、自分のための歌の勉強をスタート。69歳の時には、東京で行われた第11回奏楽堂日本歌曲コンクールで、特別賞の奥田良三賞を受賞した。
歌い続ける姿は、後輩たちの目標でもある。中澤さんが指導する合唱団の一つ、水戸うらら女声合唱団は、平均年齢70代。「先生に引っ張ってもらって、みんな元気に歌っています」と、団長の鴫原みよ子さん(87)。
数年前からは、バリトン歌手の清水良一さんの指導を受けて、新たな発声法にチャレンジをしているという。歌の魅力は、「嫌なことがあっても、歌えば忘れちゃう。これからも楽しく歌います」。