暮らしとともに1世紀超 河合の箒(ほうき)(茨城・常陸太田)
ほうきは、使わないときはつるして保管を。「大事に使うと、長持ちするよ」と萩谷さん

 常陸太田市下河合町の農業、萩谷庄寿さん(86)は、年末になると、夏に収穫した草「ホウキモロコシ」を使ってほうきを作る。「厚みがあって、よくはけるけれど、はき心地が軽いのが目指すほうき。使いやすさが命なんだ」と、萩谷さん。

 

 萩谷さんが作るほうきは、地区の伝統工芸品として、「河合の箒(ほうき)」と呼ばれている。作り始められたのは100年以上前。最盛期には50軒ほどの農家が、主に農閑期の副業として製造、県内外に出荷した。材料のホウキモロコシの生産も、地区内で盛んに行われた。

 萩谷さんがほうき作りを習ったのは、農家を継いだ18歳の頃。祖父の庄左衛門さんが、ほうき作りの職人を連れてきてくれ、仕事の合間に1か月間学んだ。家族の中で男性がほうきを作り、女性が各地に売りに行くのが風習だった。

 しかし、青年だった萩谷さんが本格的にほうきを作ることはなかった。理由は、「その頃、みんなも作らなくなったんだよ。時代が変わっていったのかな」。

 

 昔取ったきねづかを生かしてほうき作りを始めたのは、3年ほど前。きっかけの一つは、同市と周辺に伝わる農村文化の継承をしている「種継人(たねつぎびと)の会」が、ほうき作りの技術を受け継ぐ活動を始めたこと。同会のメンバーは、萩谷さんよりずっと若い人たち。「若者たちの熱意に打たれたのもあり、自分たちの文化を評価してくれることがうれしかった」

 手本にしたのは、自宅に残っていた庄左衛門さんが作ったほうき。ほうきを作る針などの道具も、庄左衛門さんや父親の浩一さんが使っていたものだ。

 

 ホウキモロコシは、かつてほどではないが栽培され続けていた。同地区で育つホウキモロコシは、上質でしなやかな腰があるのが自慢だ。

 稲穂のような穂先から実を取り払い、穂先を中心に長さを切りそろえて、まきで火をたいた釜でゆで、天日干しをする。干す時は、草を青く保つためにむしろをかける。それを、冬まで保管しておいて、作業をする前の晩に、茎の部分を水につけてやわらかくする。

 

 ほうきを編んで成形するのは、農閑期でスペースに余裕ができたハウスの中。

 作るほうきは3種類。長さ50㌢ほどの「共手(ともて)」、竹の柄を付けた「半手(はんて)」と、もっと長い柄を付けた長ぼうき。共手は、ホウキモロコシを3つに分けて針金で結わき、それを一つに合わせて編んでいく。

 地道な作業に見えるが、楽しみも多いという。「編み目がきれいにそろうと、とっても気持ちがいいんだ」

〈シリーズ終わり〉

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