大子町のアマチュア弾き語りミュージシャン・益子里菜さん(22)の願いは、「だれかの心にそっと寄り添う歌を歌うこと」。優しい願いとは裏腹に、活動は精力的で、緊急事態宣言解除後は、ほぼ毎週のように舞台に立っている。2年前の台風による水害が大きな転機だった。
益子さんは高校3年生の時、地元の小さな音楽イベントに参加したのをきっかけに、音楽活動を始めた。5歳から10年間続けたピアノへの愛から、電子ピアノで弾き語りをするスタイル。同町が拠点のユニット「まったりたいむ」にも加入した。
活動を楽しむことはできたが、引っ込み思案な一面もあり、「私なんかが歌っていいのか」と、ずっと自信が持てなかった。そんな中、2019年10月、台風19号による水害が起きた。
自宅は被災しなかったが、見慣れたふるさとの街並みが一変した。水戸市の祖母の家は、屋根近くまで水没した。落ち込む心の奥に、積もっていく思いがあった。やがて、「伝えなきゃ」という気持ちが湧いてきた。
そのときに作った曲が、「手」をテーマにした「てとてとて」。祖母が水没した家の中で、家族の写真を探していた泥だらけの“手”。避難所で手伝いをしていた時、避難してきたおばあちゃんが、ふと自分の手を握ってくれた。そのおばあちゃんの“手”。音楽仲間の励ましのハイタッチの“手”。さまざまな手の温もりをつなげて作った。
曲は、聞いた人に自由にイメージしてほしいと、水害を連想する言葉は使わず、明るい曲調でまとめた。
「てとてとて」は、今も大事なレパートリー。「あれから2年。この曲を作ったときの思いを忘れずに、大切に歌っていきたい」と益子さん。
益子さんは、10月30日にJR水戸駅北口で開かれる「日本酒バー」の会場内のステージで、午後1時から演奏予定。益子さんも所属する日立市のダンスチーム「チームゼンホリ」と共演する。