般若心経の写経 1千巻 夫亡き後、「毎晩、心を静めて書いた」と軍司さん
書き終えた1000巻目を手に軍司さん

 ひたちなか市の軍司あゆ子さん(71)が書いた写経がこのほど、1000巻(枚)に到達した。夫の忠一さんの供養にと、経典「般若心経」を書き始めて6年。「毎晩、心を静めて書いた。写経をしたおかげで、前を向けました」とあゆ子さん。

 忠一さんがすいぞうがんで亡くなったのは10年前。夫婦で引っ越しを終えた直後に病気が分かり、当初は余命3か月との診断だった。

 夫の心配と引っ越しの疲れが重なり、混乱していたあゆ子さん。転んでけがをした右足の傷が原因で、敗血症に。右足を膝下から切断することになり、その手術の日が夫の命日になった。

 忠一さんは、貨物船の機関士で、1年のうちに国内にいるのは3か月だけという生活だった。その3か月間は、夫婦で旅行をしたり、おにぎりを持って地元の海に遊びに行ったり。「一緒にいられる時間は少なかったけれど、楽しく、幸せでした」

 「しばらくは泣いて暮らしていました」とあゆ子さん。数年たった頃、書道をまた習ってみたいとの気持ちがわき、なじみの教室に通い始めた。教室を主宰する書家の根本墨縁さんが市内で開いていた写経教室にも参加。根本さんに、「1000巻書くことに挑戦してみたら」と励まされ、「書けるところまでやってみよう」とスタートした。

 筆を持つのは夕食後。「気持ちがざわざわしていると、字が整わない。心が字に出るんです」。最初は1巻書くのに2時間ほどかかったが、般若心経を暗記して、45分ほどで書けるように。

 根本さんからは、こだわらない、とらわれない、かたよらない、求めないという自由な心を説いているという般若心経の意味も学んだ。

 1000巻を書き終え、「夫に気持ちが伝わっているといいな」と、あゆ子さん。写経は今後も続けることにした。「せめて1日でも早く新型コロナウイルスが終息することを願って書くことにした。身に付いた文字を書く習慣も大切にしていきたい」

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