鹿嶋市平井のラーメン店「ラーメンショップ鹿島平井店」は、朝5時半に開店する。朝専用のメニューは用意せず、背脂を乗せたこってり系ラーメンが中心になるが、それらを目当てにやってくる客は多い。ランチの時間よりも、朝のにぎわいが大きいこともあるほどだ。
店の目の前は、鹿島港へ続く大通り。客の多くは働く男たち。港周囲のコンビナートの従業員、全国からやってくるトラックの運転手、地元の漁師もやってくる。
店主、小原千代さん(77)が60歳のときに開いた店だ。
小原さんは長年、夫と二人三脚でトラックの運転手をしていたが、夫の糖尿病が悪化したことを機に、方向転換した。
料理も客商売も初めてのことだったが、「思い切りがいいんだ」と小原さん。店は居抜きで引き継いだため、以前からの客にも支えられ、スムーズにスタートできた。
68歳で夫を亡くしてからは、寂しさを打ち消すように仕事に打ち込んだ。
朝の客は、大半が常連客だという。作業着姿の松本光正さん(54)は、のれんをくぐるや小原さんに話しかけた。
店内に張られた同店のパート募集の紙を指さして、「誰か辞めちゃうの?」。従業員全員が顔見知りとのことで、寂しげだった。松本さんは、休日に家族を連れてやってくることもあるという。
従業員は、50歳台以上の女性ばかり。みなベテランだ。
小原さんと一緒に、朝を担当することが多い安藤あい子さん(66)は、小原さんの実の妹。「私は本当の家族だけど、ほかのみんなも家族みたいなもの。おしゃべりが始まったら止まらないし、たまにはけんかしちゃったりね」と笑った。
店には、大きなコの字の形のカウンターがあり、その内側が、厨房だ。客に三方から見つめられて、「見せ物みたいで、ちょっと恥ずかしいんだよ」と小原さん。
ゆであがった麺を、大鍋からすくい上げる「麺上げ」という作業では、ベテランぞろいの従業員の中でも、小原さんの右に出る者はないという。
使うのは、昔ながらの平らなざる。湯からすくい上げた麺を、宙に何度も舞い上げて、湯切りする様子は、職人技。
「駆け出しのころに苦労しながら覚えたの」というが、いまも研究を重ねているという。最近のラーメンファンは、注文が多いためだ。「軟らかめや固めだけじゃなく、バリカタとかいろいろね」
小原さんは、ゆで時間を計ったりはしない。鍋の中での麺の踊り具合と、ざるを通して伝わる麺の質感を頼りに仕上がりを見極めるという。
午前5時半~午後4時。日曜定休。鹿嶋市平井3の1035の4。☎︎0299・83・3799。