今年の春に真打ちに昇進した水戸市三の丸出身の講談師、松林伯知(しょうりん・はくち)さんがこのほど、同市の水戸芸術館で「昇進襲名披露」公演に臨んだ。師匠の神田紅さんらと共に昇進と襲名を報告した口上の後には、同市ゆかりの新作歴史講談「燭台切光忠」を披露。大きな拍手で祝福された。口上には、同門の先輩で、テレビ、ラジオなどでも人気の神田伯山さんも参加。祝福の言葉を送った。
伯知さんの昇進前の名前は神田真紅。昇進を機に3代目の松林伯知となった。初代松林伯知は、明治から昭和初期に、新作の歴史講談で人気を集めた。伯知さんは、歴史の研究者を目指したことがあるほどの歴史好き。講談師を志す前から、松林伯知の名前に触れていて、憧れていた。
伯知さんが師匠に弟子入りしたのは15年前。大学を卒業して、編集者として会社勤めした後のこと。講談師は、前座、二つ目という階級を経て、1人前の真打ちになる。特に、前座の時期の修行は厳しく、音を上げるものも少なくないが、「歴史の話をして喜んでもらえることがうれしくて、苦労とは感じなかった」。
修業時代の苦労として思い当たるのは、「コロナ禍で、高座に上がれなかったこと」。しかし、その時期も、古い歴史資料を振り返るなどして、新作講談作りに熱中するなど前向きさを失わなかった。
故郷に錦を飾った今公演も、「昇進と襲名があまりにうれしくて、緊張する余裕がなかった」と頼もしく振り返った。