
常陸太田市の金砂郷地区。人家より田畑と山々が目立つ場所に、イタリアンレストラン「楽生流(らうる)」はある。農家の納屋を改装した店舗では、軒下にイタリアとコロンビアの国旗がはためき、この時期は、ハロウィーンの装飾も楽しげだ。
「楽生流」は、南米・コロンビア出身のラウル・ピネダさん(41)が2020年3月にオープンした。メニューは、パスタ、ピザが中心のイタリア料理。週末は駐車場がいっぱいになるほどの人気だ。
ラウルさんは、世界を知る料理人。原点は、母親のヴィクトリアさんに教わった故郷の煮込み料理。18歳でイタリアに渡り、「お金はいらないから料理を教えてくれ」と、人気店の門をたたいた。その後、スペインにも渡って腕を磨いた。
東京で暮らした親戚を頼って、28歳で日本に来た。日本の風土と、繊細な日本の料理にも魅力を感じた。妻、奈美さんと出会ったこともあり、日本で暮らしていこうと決めた。
ホテルなど、ラウルさんの腕を買ってくれる多くの店で腕をふるった。一方で、「料理人である以上は」と、独立の夢も持っていた。
空き家だった今の店舗には、不動産店の紹介で出合った。日本人の感覚では、単なる農家の空き家。それがラウルさんには「世界一わくわくする場所」と映った。
奈美さんは、「ここで繁盛するのは難しい」と大反対。でも、ラウルさんは、「僕を信じて」と譲らなかった。
ネットでPRするより、店のチラシを作ってスクーターに乗って配った。「あそこにイタリアンなんて信じられない!」「コロンビア人?」「どんな料理を作るの?」・・・・。ミスマッチとも思える要素が興味につながった。
客は、地元の常連が多い。お年寄りたちがおしゃれをして楽しみに来てくれる。帰省した子どもたちを連れて来ることも多い。
それらを実現している理由の一つにも、世界で学んだものがある。心からのおもてなしをするというホスピタリティーだ。「料理は、自分の家族に出すような気持ちで作ること」。店のスタッフとも共有している。
店の発展と同じくらいうれしいのが、故郷の母が喜んでくれていること。「僕に料理の楽しさを教えてくれたママに感謝なんだ」
常陸太田市中利員町2975☎050・1136・7374。火曜定休。月・水曜はランチのみの営業。ディナー(木・金・土・日曜)は予約制。