鉾田市塔ケ崎の笠間裕之さん(ペンネーム)は、全国販売する漫画の原作者として、少しずつ活動の幅を広げている。昨年と一昨年には、雑誌「まんがタイムきららMAX」に連載した作品「妖こそ怪異戸籍課へ」の単行本が発行された。その好評を受けて、同雑誌で新連載「さうのあっ!」も始まっている。
笠間さんは、現状について、「個人的には、漫画に携わることができるだけで満足している。でも、親に安心してもらうために、もう少し売れたい」と笑顔で話す。
妖こそ怪異戸籍課へは、妖怪が登場するファンタジー作品。舞台は、架空の街の市役所の「怪異戸籍課」。同課の仕事は、地域に暮らす戸籍のない妖怪たちの支援。さうのあっ!は、サウナ好きのフィンランド人高校生と友人の物語だ。
笠間さんは同市の出身で、5年前に帰ってきた。今は、実家で暮らしている。
年齢は、非公開にしている。理由は、「駆け出しの原作者としては年を取り過ぎていて、恥ずかしいから」。
そこに至るには、相応の曲折があった。
大学時代から尊敬するのは、中国の妖怪を研究していた教授。卒業後は、教授のすすめもあって、中国で研究に励んだ。
笠間さんは幼少期からの漫画マニア。漫画の制作に携わりたいという夢もあった。妖怪にひかれたのは、漫画マニアの趣向の延長でもあった。
帰国後は、東京でフリーライターとして働いたが、漫画に関わりたいという欲求は抑えられなかった。
出版社に漫画の原作を売り込みながら、ゲームのシナリオライターとして生計を立てた。
すでに青春期は過ぎていた。先行きの不安をぬぐったのは、「漫画の良し悪しに、絶対的な基準はない」という信念。何度、酷評されてもめげなかった。
「やがて、運が回ってきた」
怪異戸籍課の物語の根底には、かつての妖怪の研究の成果がある。ある日、現代日本にも多くの無戸籍者がいるというニュースを見て、「組み合わせたらいけるかも」と思った。
すぐに登場人物づくりに入った。一人一人に細かな履歴書をつくった。「その後は、物語が自然と展開した」
東京で暮らしていたころから故郷への思いは強い。ペンネームの「笠間」は、笠間市に初詣に行った思い出から付けた。漫画の登場人物を、茨城県出身とすることもあった。
実家暮らしは、「規則正しくなれるのがいい」と肯定的。また、子どものころから知っている周囲の人たちに、漫画の感想を言われると、「はずかしいけど、励みになる」。
仕事は、月に1度ほど東京に出れば、あとはメールや電話でこと足りる。
最近は、「鉾田を舞台にした漫画を作りたい」という願いも抱いている。
▲雑誌「まんがタイムきららMAX」で連載中の「さうのあっ!」の一話。4コマ漫画が連なる形で、ストーリーが展開する(C)笠間裕之・宮月もそこ/芳文社