記事のトップの1枚と下の2枚の写真は、すべて大子町の冬景色だ。上写真は、大生瀬の沓掛峠のヤマザクラ。白黒写真ではなくカラー写真。春には一転、全体がピンク色で覆われ、周囲を花見客が囲む。左上は袋田の滝。こちらは白黒写真。氷で覆われ始めた岩肌のゴツゴツとした様子が強調され、神々しい印象すら持たせる。左下は、男体山の麓の集落。雪化粧した一帯と、空の青のコントラストは、心が洗われるよう。
昨年の夏のかつてない暑さは、多くの人の記憶に新しいことだろう。一年で最も寒い季節を迎えた今も、「昔ほどの寒さではない」という感覚は拭えない。地球が変わりつつあることは、確かなのであろう。
一年の頭に、写真特集「美しき茨城の冬」を展開する。私たち一人一人に、地球の変化にあらがう力はないのかもしれない。ただ、自分たちの身近にある美しい冬を見つめ、見守ることが、大きな何かを生み出すという希望を込めた。
▲袋田の滝(ひたちなか市の福田仁さんが、2015年1月に撮影
▲男体山(鹿嶋市の鈴木佐知子さんが、2010年2月に撮影)
営みを包み、時を越える
▲常陸大宮市・辰ノ口堰(せき)周辺(同市の大貫亘さんが、2016年1月に撮影)
上写真は、常陸大宮市の辰ノ口堰(せき)の周辺を撮影したもの。高台にある展望台から撮影された。見渡す限り雪に覆われている。
下写真は、大子町川山で撮影した霜で覆われた田園風景。5つ並ぶ物体は、わらぼっち。牧草などにするために稲わらを積み重ねたもの。
▲大子町・田んぼのわらぼっち(鹿嶋市の秋田晴夫さんが、2017年1月に撮影)
厳しい冬は、町や村に美しいベールをかける反面で、その中に暮らす人々のことを想像させる。
たくましく、勤勉な彼らの頬は冷気で赤く染まっている。白い息も、目に浮かぶ。美しい風景とそれらが、何百年も前から何一つ変わることなく、紡がれてきたような錯覚も覚える。
異世界は緊張も呼ぶ
▲高萩市・花貫渓谷(常陸大宮市の大貫亘さんが、2011年2月に撮影)
上は、県内外に知られる紅葉の名所、高萩市の花貫渓谷の汐見滝吊(つ)り橋。下2枚は、鹿嶋市の北浦湖畔と、北茨城市の水沼ダムだ。
▲北茨城市・水沼ダム(同市の会沢龍次さんが、2014年2月に撮影)
▲鹿嶋市・北浦(同市の笹本文夫さんが、2018年1月に撮影)
冬の美しさはときに、見る者に緊張を強いる。
汐見滝吊り橋の周囲は、晩秋には行列ができていた。それがいま、人けがない。寒さが極まる日は、足元が不安定で、万が一を恐れて、体が固まる。周囲は、紅葉とはまったく異質の、特別な魅力に覆われることもある。
北浦湖畔につららが下がるのは、筑波おろしと呼ばれる北西の強風が吹いた翌朝のことが多い。つららは、筑波おろしが吹き上げた湖の水がつくる。温暖な鹿行地区にも冬の厳しさを垣間見ることができる。
県道から見下ろすことができる北茨城市の水沼ダムにはある日、車が乗れるかと思えるほどの分厚い氷が張り詰められていた。
厳冬がつくり出す温もり
▲東海村・豊岡の海岸(常陸大宮市の大貫亘さんが、2021年元旦に撮影)
上の写真には3つの見どころがある。東海村豊岡の海岸から望む初日の出、それを望む人々、波打ち際から上がるけあらしだ。元日の朝は、多くの人が、冬の美しさと出合う機会だ。
撮影したのは常陸大宮市の大貫亘さん(72)。大貫さんは50年以上、さまざまなテーマをもって本県の自然を撮り続けている。これまでにテーマにしたのは霧、ホタルなど。
上の写真を撮影したのはコロナ禍の中で迎えた元旦。「毎年やってくる孫が来られないというので」と笑った。
特に寒い朝だった。コロナ禍もあって人影が少ないことを予想したがはずれた。どうせならと、日の出と、人々と、人々が乗ってきた車まで写真に収めようと、後方にカメラを置いた。
けあらしが上がっているのは、水平線が赤くなり始めて気がついた。けあらしは、冷えすぎた大気と、海水の温度差がつくりだす厳冬現象。
「けあらしと、例年になく明るく思えた日の出、幸せを願う人々の心の温かさのせいもあって、温もりのある写真になった」と大貫さん。